出資の基礎知識:その7|価格交渉
出資プロセスにおける、最大の山場です。
出資が成功するかどうかは価格で決まります。ですので、私は、全身全霊で価格決定、交渉をすべきと考えています。しかし現実は異なります。
社内体制で価格が決まる
出資に慣れていない企業の場合、出資を成立させることが成果となるため、交渉決裂を恐れる傾向にあります。このため、「高い」と思っている価格でも、成果を上げるために受入れることが多くなります。
出資担当者が案件を成立させて昇給・昇格する一方、事業責任者は価格通りの事業計画を実現できず、減損・撤退をもって降給・降格する、は「出資あるある」といえます。
ですので、まずは出資担当者の評価基準とインセンティブを作ることが先決です。そうでないと、永遠の高値掴みを繰り返します。
価格算定の手法
価格算定の方法はたくさんありますが、結論は何でもOKです。お互い価格合意できれば、難しい論理などは不要です。
しかし、現実では、DCF(ディスカウント・キャッシュ・フロー)法や、類似企業比較法、類似取引比較法、簿価純資産法、RR法などがあります。
なぜ手法が必要なのか
上場企業でなければ、目に見える株価はありません。ですので、売り手と買い手のぞれぞれが考える株価にはギャップがあります。このギャップを交渉で埋める必要があります。
交渉では、それぞれの主張に、しっかりとした根拠が必要となります。この根拠とは相手に対する根拠でもあり、社内の取締役会や監査法人、出資者に対する根拠でもあります。ですので「社長どうしが合意した」だけでは根拠とならず、論理的な価格算定の手法が必要となります。
結局、どの手法がベスト?
私としては、買い手は「類似企業比較法」、売り手は「DCF」か「類似企業比較法」をおすすめします。
類似企業比較法
詳細は別掲しますが、この方法は事業内容が似た上場企業の株価を参考にする方法です。
例えば、非上場のNTTドコモの価値を算定したければ、上場しているKDDI、ソフトバンクの株価を参考にします。そして、KDDIとソフトバンクの売上と株価を比べます。もし両社の株価が、昨年度売上の3倍で取引されているなら、NTTドコモの株価も売上の3倍くらいと見積もれます。
この手法で導かれる株価は、以下の条件で変わります。
- どの企業を「似ている企業」として比べるか(例|楽天も入れる?)
- いつのタイミングの数字を採用するか(例|今年の実績、来年の予想?)
- どの数字を採用するか(例|売上と株価の比率、利益と株価の比率など)
DCF法
この方法は、事業が将来生み出すフリー・キャッシュ・フローの合計を現在の価値で算定する方法です。
例えば、永久に100万円のフリー・キャッシュ・フローを生む事業があれば、毎年の100万円を今の「現在価値」にして足し合わせます。
この手法で導かれる株価は、以下の条件で変わります。
- 将来フリー・キャッシュ・フローの予想
- 永久成長率
- 割引率
- エクセルのバグ
しかし、どんなに知的な作業に見えても、数字あそびに終わるリスクが高いのがこの手法です。一番の理由は、将来フリー・キャッシュ・フローの予想が難しいことです。数字予想をしていく中で、売り手は「もっと成長する!」と主張し、買い手は「こんな数字は夢物語だ!」と言い合う形になります。そして、数字がどんどん空論に近づいていくのです。
だからこそ、買い手には、「類似企業比較法」でより現実的な価格を把握することをおすすめします。一方、売り手には、価格が上がりがちなDCF採用を勧めます。
最後に
そのように煙に巻くFA(フィナンシャルアドバイザー)や担当者がいたら注意してください。高値でも案件を成立させて成果を手に入れたい、という気持ちが隠れているからです。
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